~人間の五感は馬鹿に出来ない~
プロフィール 栃木県出身。東京の大学を卒業後、約3年間の会社員を経て公認会計士の資格を取得、現在は鈴木泰浩公認会計士・税理士事務所の代表。中学1年生の1992年にエコプラス主催の第一回のヤップ島プログラムに参加した。現在も正会員として総会に参加してくださるなど、エコプラスとの関係は長い。
「ヤップでの思い出を教えてください」
習っていた英会話教室のつてで高野さんとお会いする機会があり、ヤップ島プログラムに参加しました。第1回目は男性陣が中学生とか小学生で、女性陣は高校生が中心でした。初めての海外だったのですが、地元の小学校に寝泊まりして、自分たちで食べ物や飲み物を自給自足するキャンプ生活でした。あまり適応力もなかったんで結構大変だったなという記憶があります。みんなで計画的に飲んでいたオレンジジュースを男子組がこっそり一気に飲んでしまう事件があったのは、はっきりと覚えています。
当時ヤップがあるミクロネシア連邦はアメリカの援助を受けていく中で、様々なものが変わり始めている過渡期だったんですよね。現地でいろいろお話を聞いたり、ライフスタイルなどを目の当たりにして、こういう風に今後変わっていくんだろうなというのを感じることができました。実はヤップは太平洋戦争に日本が占領していたところでもあったので、日本語がわかる方も何人かいらっしゃいました。今はどうなっているのか分からないですが、観光地されていない自然がとても綺麗でした。
しかし、当時は中学1年生だったので、まだ自分の中で自我みたいなものもなかったですし、幼かったので、自分の中ではすぐには消化できなかったです。キャンプ生活をやって「日本に帰ってきて便利だなあ」、みたいな子供の感想しか感じることができなかったのが正直なところです。ただ、便利な世界とそうでない世界があることは感じることができました。具体的なライフスタイルが変わったかと言われると、ただ普通の田舎の中学生に戻ったという感じですが。
「今のお仕事はどんなことをされているのですか」
公認会計士は、まず1つの仕事としては、会計監査の仕事があります。
上場している会社では、投資家が株の売り買いをするわけなのですが、投資家は会社の財務諸表の成績を見て投資の売買を判断します。要するにその財務諸表というものが重要で、それが正しくないと、いろいろなところに波及していくわけですよね。
倒産しそうな会社が今安全ですよ、みたいな感じで財務諸表に手を加えることをして、それを信じて投資家が株を買ったり銀行が融資したりしたら問題になるので、その財務諸表が正しいかどうかというのを監査証明する、というのが会計士の重要な仕事としてあります。
会計士になると監査法人という会計監査をメインにする組織に入って仕事をするんですけど、長年監査法人に居続ける方もいらっしゃる一方で、私みたいに独立して会社の経理や会計などを手伝ったり、上場を目指す会社さんのために経理体制を整えたり、内部統制の仕組みを作ったりといった仕事などがあります。要は色々ありますね。
「会計士を目指すことになったきっかけを教えてください」
大学時代は別に会計士の勉強はしてなくて、大学の社会学部で社会学を勉強していました。これになりたいというのが特にない中で就職活動をして、最初NTTドコモに行ったんですよね。そこで3年間くらい働いていたんですけど、時間的な余裕も少しあったんで簿記の勉強をやってみようかなと思ったんです。簿記の2級から始まって、簿記の1級までとったんですけど、これがしっくりきたというかすごく面白いなっていうのを感じました。
なので、会社のそういう部署に行こうか迷ったんですけど、せっかくならもうちょっと上のステップを目指そうかなって思って、会計士を目指すことになりました。2年間無職になって、そこで勉強して、会計士の資格をとって、という感じです。結構人生回り道した感じですね。全然ストレートには行ってないです。
「ヤップの経験は今に活かされていますか?」
仕事には直接影響はないですかね。
けど仕事をやっていて思うのですが、現場に行くっていうのはすごく重要なことだと実感します。ここ数年のコロナ禍の影響で、リモートで仕事が完結することができるようになったんですよね。Zoomの打ち合わせで完結するような仕事も増えました。
でも一方で、やはり重要なポイントではお客さんの顔を見て話さないといけないなと思います。
やはり人間の五感というのは馬鹿に出来なくて、実際に見ることでしか得られない情報というものはたくさんあると思います。
たとえば工場の衛生状態や管理状況、作っているものの質感や従業員の雰囲気など、色んな情報が得られるわけです。
それでヤップに行って思ったことは、当時中学生のときは消化できなかったという話をしたと思うんですけど、それでもやはりものすごい情報を感じている訳ですね。記憶から無くなっている部分はありますが、感じたものは強烈な体験として残っています。
日本の田舎で普通に生活するだけでは味わえないものを体験したわけじゃないですか。だから人生にプラスになるかどうかわからないけど、長い目で見ると何らかの影響を与える物もあるというような、まあつまり一次情報を得ることの重要性ですかね。そういうものを感じました。
「エコプラスに共感できることは?」
体験を重視しているところですかね。継続して体験型のプログラムを続けるというのは色々な方々のご協力が必要でとても大変なことだと思います。ヤップ島に関しても良好な関係性がなければ、そういうプログラムって続かないと思いますので、高野さん大前さんがこうして続けてらっしゃるのは素晴らしいことだと思います。
ヤップでは、すごく良い経験をさせてもらったなと。人間としての幅じゃないですけど、それが広がる一部分になったのかなというのを感じていて、若い方々がエコプラスでそういう経験をしていただきたいという思いがありますので、今でもエコプラスに寄付をしています。あとは、以前エコプラスに関わっていた方で、その活動に共感して寄付をしたいっていうのは結構いらっしゃると思うので、そういう方々が寄付しやすいような仕組みを作っていくとエコプラスの活動を多くの人に知っていただくきっかけになるのではないでしょうか。
「若者に向けてのメッセージをお願いします」
今の若い方は皆さん優秀だなって思います。今の学生さんはちゃんと勉強しているっていうイメージがあるので、とくにメッセージというよりかは一緒に頑張りましょうって感じですね(笑)。私の話をすると、公認会計士する前にドコモで、3年間働いたのは、結果としては良かった、悪かったの両方ですかね。周りの人も新卒で就職して何年かは働いた方がいいという考え方の人も多く、社会に出てみないとわからないこともあるなと思い新卒で就職をしました。けれど、思うのは、やはり周りからすれば、有利不利っていう話に傾きがちなんですけど、長い目で見たら、自分がこうやりたいっていうその自分の気持ちを重視して選択したら、それがその世間的に見て有利不利かっていうのはそんなに大した話じゃないと思うんです。だから自分の中でちゃんと筋を通して、本当にやりたいことをやるのが一番いいと思います。
【インタビューを終えて思ったこと】
30年前のヤップの話を当時中学生だった視点から語っていただき、今のヤップとの違いを知る面白い機会になりました。また、公認会計士に至るまでも紆余曲折があったことを知り、今有利かどうかは気にせず、自分の中で筋を通すのが一番という言葉がとても印象に残りました。私も今後色々選択に迫られることが多くなると思いますが、この言葉を胸にして頑張ろうと思いました。
聞き手:中山 裕夢