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ヤップ島プログラム 25年3月に実施

デジタル漬けの空間から離れ、素になって生きる

 エコプラスは、ヤップ島プログラムを、25年3月に実施します。3月8日から19日。現地での10日間の本格プログラムとしての実施です。

 舞台となるのは、ヤップ島東部のタミル地区にあるデチュムル村。ヤップ島では、サンゴの浅い海とすべての陸地が、個人や集落の所有となっていて、一般人の立ち入りが出来ません。観光客として入り込むことが極めて難しい場所です。いまでも石のお金(石貨)が使われる、太平洋諸島の中でももっとも伝統を色濃く残す地域でもあります。エコプラスは40年来のお付き合いの中で、このプログラムを実施しています。

 プログラムのテーマは「豊かさとは何か」です。自然のすぐそばで、自然と調和した暮らしをいまも維持している村にお邪魔して、人としての毎日がどのように組み立てられているのかを体感し、その上にある「幸せ」とは何かを考えるプログラムです。

 日本のようにふんだんに電気やガス、水道を使う暮らしとは違います。シャワーは水だけ。屋外にシャワー小屋を現地の人と作るところから始めます。ネットもつながりません。集落の女性たちが活動する建物のタイルの床に雑魚寝します。地域の方たちの動きを学びながら、自分たちで食事を作り、暮らしを組み立てていきます。日本からのスタッフも、手出しをせずに、安全面での見守りに徹します。

 自給自足経済を基盤としたシンプルな暮らしの中に、お邪魔させてもらい、シンプルな暮らしを通して、何が大切なのかを体験を通じて考える機会になります。

 ヤップ島プログラムは、1992以来30年以上実施され、400人以上の若者たちが関わってきました。それまでの価値観を揺るがされ、人生に大きなインパクトを受けた人たちが多いことが長年の追跡調査で示されています。

 豊かさや幸せを考えたい人、これからの社会のあり方を考える素材をたくさん見つけたい人におすすめです。

 2025年ヤップ島プログラム概要

【日程】2025年3月8日から19日
【対象】15~25歳程度の健康な男女。身体の障害、国籍は不問。新しいことに取り組み、自分の可能性にチャレンジする意欲を持つ人。
【プログラム費】15万円(滞在費含む)など。渡航費、成田空港までの旅費、保険料、事前準備、個人装備は除く。
【渡航費】ユナイテッド航空利用、9月末現在で147,300円。
  往路 3月8日1700成田発、グアム経由9日0110ヤップ着
  帰路 19日0235ヤップ発、グアム経由 0955成田着
【定員】10名程度(最少催行人員6名)
【説明会・個別説明】12月6日まで随時(オンラインも可)
【参加締切】12月7日(定員に達し次第締切)
【プログラムの流れ】
 顔見せ会(12月14日午後、もしくは15日午前)などで情報共有をし、準備を一緒にします。ヤップ島に関する下調べを行い、事前キャンプ(1月11-12日、日帰りの場合も)を経て現地へ。本番の後は、みんなで報告書を作成、報告会を実施します。応募の時点から準備、本番、そして報告会(6月ごろ)までがプログラムです。
【問い合わせ】info@ecoplus.jp

 関心ある人は、以下から仮申し込みを送ってください。説明会の連絡や本申込書、健康チェック票をお送りします。

ヤップ島プログラム2025仮申し込み

お名前のよみを記入して下さい
社会人の場合は所属、学生の場合は学校学年を
前の質問で「その他」を選ばれた方は、ここに具体的にお書き下さい


豊かさとはなんだろうか? 

ヤップ島プログラム2024活動報告会 

報告:エコプラスインターン 佐藤勇輔 今瀬菜月

 今年3月に実施したヤップ島プログラムの報告会を、6月30日に東京都千代田区の神田公園区民館で行いました。プログラム参加者5名は家族や友人らの前で、ヤップ島での経験や感じたことを思い思いに話しました。 

 まず、プログラム参加者はヤップ島の基礎知識をクイズ形式にて紹介しました。私たちに特に印象に残ったものは、ヤップ島で使われている言語についてです。ヤップ島ではヤップ語が使われていますが、日本語由来の言葉が多くあります。クイズの解説を通して、その背景にはかつて日本に統治されていたという歴史があるということを知りました。そのような背景を持つ中で、ヤップ島の方々はプログラム参加者を歓迎してくれたそうです。

 次にプログラム参加者がヤップ島で学んだことを紹介しました。

 1つ目はヤップ島での暮らしの知恵です。ヤップ島の住民はヤシを食料だけでなく、寝床やまな板としても利用していました。プログラム参加者は、このような暮らしの知恵に触れ、ひとつのものを複数の用途で利用していることに感銘を受け、ひとつものをひとつの用途で用いる日本での暮らしとの違いを感じていました。

 2つ目は地球環境です。ヤップ島では海面上昇・干ばつなど、地球温暖化の影響をダイレクトに受けていたとプログラム参加者は話していました。現地の方々は、ヤップ島に生息するニッパヤシを海面上昇から守るために、植林をするなどの対策を取っていたようです。また、干ばつで川が枯れ、新たに井戸を掘らなければならないという状況にも陥っていました。日本ではその影響を感じることはほとんどありませんが、プログラム参加者はこのプログラムを通して環境問題への意識が高まったようです。

 3つ目はグローバル化の影響を受けるヤップ島です。ヤップ島の近くで生息しているシャコガイなどは、周辺のグアムで高く売ることができ、過剰採取されています。現地では、その対策として禁漁区を設けて持続的な管理を図っています。また、外国から合成洗剤を輸入するようになりました。しかし、下水処理施設が整備されていないヤップ島ではそのまま土壌に流している現状です。その土壌は食料を育てているものであり、食料が化学物質に汚染されている可能性があります。プログラム参加者は、このようなグローバルによる影響を危惧していました。 

 最後に、会場にいる全員が4~5名のグループに分かれて「あなたにとって豊かさとは何か」をテーマに話し合いました。日本ではモノが溢れている豊かさ、ヤップでは自然と共存する豊かさを踏まえたうえで、豊かさについて考えるきっかけになりました。 

4年ぶりにヤップ島プログラムを実施

Yap-Japan Cultural Exchange Program was held after 4 years absence

 エコプラスのヤップ島プログラムが、2024年3月16日から24日までの日程で、4年ぶりに開催されました。

The Yap-Japan Cultural Exchange Program of ECOPLUS was held from March 16 to 24, 2024, for the first time in four years.

 1992年から始まったこのプログラムですが、新型コロナの影響で2000年に中止して以来、今回は4年ぶりにやっと実施することが出来ました。久しぶりのプログラムなので、参加人数も日程も抑え気味。参加予定者の1人が当日朝に体調を崩し、大学生4人、高校生1人の計5人で、現地滞在7日間のプログラムとなりました。

This program started in 1992, but was cancelled in 2000 due to the COVID-19, and this time we were finally able to conduct the program after 4 years. Since it had been a long time since this program was held, the number of participants and the schedule were kept low. One of the expected participants fell ill on the morning of our departure, so we ended up with a total of five participants (four university students and one high school student) who stayed on the island for seven days.

 滞在したのは、ヤップ島東部のタミル地区にあるアフ村。石畳の小道、ストーンパスがきれいに維持されるなど、伝統をしっかりと残した集落です。

We stayed in the village of Aff, located in the Tamil community of Yap Island. The village has well-preserved traditions, such as well-maintained stone paths.

 拠点となったのは村の集会所。新しいコンクリートづくりの平屋建て。裏手に調理小屋とシャワーハウスを作るところから、スタートしました。

Our base of operations was the village meeting hall. It is a one-story building made of new concrete. We began by building a cooking hut and shower house in the back.

 当初の3日間は、地元の暮らしの知恵と技を知る期間。寝るときに床に敷くマットをココヤシの大きな葉で編んで作りました。若いココヤシの実(ココナツ)を割って中のジュースを飲む方法も教わりました。料理に使うココナツミルクは、地面に落ちてしばらく経った茶色いココナツの果肉(コプラ)を削ってしぼり出します。その外側の繊維が詰まった部分は乾かすと貴重な燃料になります。無駄なく自然を使って食材や道具に変身させる伝統の知恵に、参加者はびっくりしていました。

The first three days were a time of learning about the wisdom and skills of the local way of life. We made mats for sleeping on the floor by weaving them from large coconut palm fronds. We also learned how to husk a young coconut and drink the juice inside. Coconut milk for cooking is made by grinding and squeezing the copra from old coconuts left on the ground for some time. The fibrous outer part of the coconut is dried and used as a fuel. The participants were amazed at the traditional wisdom of using nature without waste and transforming it into food and tools.

 中盤では、1泊2日のホームステイをさせてもらいました。1人づつが別々の家庭にお邪魔して、家族として過ごさせてもらう貴重な体験です。

 それぞれの家庭で、料理を一緒にしたり、子どもたちと遊んだりと、どっぷりと地元の暮らしに受け入れてもらいました。

 2日目の夕方に戻ってくる時には、花輪を頭に乗せ、手作りのバッグや、魚やタロイモなどであふれんばかりの夕食バスケットなど、大量のおみやげでいっぱい。ホームステイ先の家族たちと楽しそうに笑い合ってのご帰還でした。

In the middle part of the program, we were given the opportunity to stay with a host family for two days and one night, with each of participant visiting a different family and spending time with them as a family.

They cooked together and played with the children at each home, and were fully accepted into the local lifestyle.

When they returned in the evening of the second day, they had wreaths ont thier heads and were filled with souvenirs, including handmade bags and dinner baskets overflowing with fish, taro, and other delicacies. They returned home with their host families, laughing happily together.

 後半は、海での活動や、地元の共同作業への参加、ファエウェルパーティと息つく間もない忙しい時間となりました。

 サンゴで囲まれた海は、岸辺ではマングローブ林などからの養分が多く透明度は低いのですが、外洋近くまで行くとくっきりと見通せる輝くような世界。地元の自然保護組織、タミル自然保護基金(TRCT)が取り組んでいるオオシャコガイの再生事業の現場で、かごに入れて外敵から保護されているシャコガイの藻や泥をきれいにする作業にも加わりました。

The last days of our stay were busy with activities at sea, participation in local community work, and a farewell party, leaving no time to catch our breath.

The lagoon was not very clear at the shore due to nutrients from mangrove forests and other sources, but once you get closer to the reef, you can see clearly into the shining world. We also joined a local conservation organization, the Tamil Rescue Conservation Trust (TRCT), as they worked to clean algae and mud from the giant clams, which are caged and protected from predators.

 ヤップ島では23年12月からほとんど雨が降らず、1-3月の降雨量は平年の20分の1という干ばつに見舞われています。

 このためアフ村では、生活用水を確保するために、数十年間放置されていた井戸を復活させようと、村人たちが埋もれた井戸を掘り起こす作業をしていました。この村の共同作業にも参加させてもらい、腰ほどの深さの穴を掘り進めました。やや谷筋の粘っこい土はシャベルにくっついてなかなか掘り進めないのですが、地元の人たちと交代しながらの2時間ほどで、肩近くまでの深さに掘り下げることが出来ました。

The island of Yap has been experiencing a drought since December 2023, with almost no rainfall, and precipitation from January to March is 1/20th of a normal year.

For this reason, the villagers of Aff began digging an old well in an effort to revive a well that had been abandoned for decades in order to secure water for daily use. We were allowed to participate in this community work and dug a hole as deep as our waists. The sticky soil in the valley line stuck to the shovel and made digging difficult to dig, but after about two hours of taking turns with the locals, we were able to dig down to almost shoulder deep.

 地球規模の気候変動を肌で感じると同時に、それに対応するために住民が力をあわせて努力している姿を見ることが出来ました。

 ヤップ島とグアム島を結ぶ航空便は、週に2回。いずれも深夜から未明の運行です。このため日曜日の午前1時前後に到着して、次の日曜日の未明に島を離れる、まる1週間の滞在でした。これまでならあと数日は滞在するところですが、それでも参加者たちは、一つのものを多様に使う知恵と技に驚き、暮らしに学びがあふれていることにも気がついたようです。

We were able to see firsthand the effects of global climate change and how residents are working together to respond.

There are two flights per week between Yap and Guam. Both flights operate from midnight to dawn, so we arrived on Sunday morning around 1:00 a.m. and left the island before dawn the following Sunday, a full week’s stay. Although they would have been on the island for some more days, the participants were still amazed at the wisdom and skill of using one thing in many ways, and they also noticed the abundance of learning in the daily life of the island.

 同じタミル地区の別の村からは、いつでも来てくれて大丈夫との連絡をもらっています。水不足ですでに時間給水が始まっていること、さらに夏の暑さも以前に比べて激しくなっていることなどから、その状況を見ながら、次回の日程を検討しています。

We have been informed by another village in the same Tamil community that they can host our group next time. We are looking at the situation and considering the next schedule as the water supply has already started on time due to the water shortage, and also the summer heat is more intense than before.

ヤップ島プログラム24年3月再開

 エコプラスが1992年から展開してきたヤップ島プログラム。2019年夏の実施を最後に、新型コロナの感染拡大で中断してきました。24年3月、再開第1回を実施することにしました。

 期間は、3月16日から24日。現地での7日間のプログラムです。

 舞台となるのは、ヤップ島東部のタミル地区にあるアフ村。

 テーマはこれまで通りの「豊かさとは何か」です。自然のすぐそばで、自然と調和した暮らしをいまも維持している村にお邪魔して、人としての毎日がどのように組み立てられているのかを体感し、その上にある「幸せ」とは何かを考えるプログラムです。

 現地では、地域の方たちの動きを学びながら、自分たちで食事を作り、暮らしを組み立てていきます。スタッフは手出しをせずに、安全面での見守りに徹します。

 今回は日程の確定も直前だったために、事前キャンプなどができないかもしれません。趣旨を十分に理解いただける方に参加いただければと思います。

 2024年ヤップ島プログラム再開第1回概要

【日程】2024年3月16日から24日
【対象】15~22歳程度の健康な男女。身体の障害、国籍は不問。新しいことに取り組み、自分の可能性にチャレンジする意欲を持つ人。
【プログラム費】10万円(滞在費含む)など。渡航費、空港までの旅費、保険料、事前準備、個人装備を除く。
【渡航費】ユナイテッド航空利用、19万円程度。
  往路 成田発グアム行865便、グアムからは185便
  帰路 ヤップ発186便、グアムからは196便
【最少催行人員】6名
【プログラムの流れ】
 事前に顔見せ会などで情報共有をし、準備を一緒にします。ヤップ島に関する下調べを行い、本番の後は、みんなで報告書を作成、報告会を実施します。応募の時点から準備、本番、そして報告会(6月ごろ)までがプログラムです。
【問い合わせ】info@ecoplus.jp

 ご希望の方は、以下に記入をお願いします。エコプラスから詳細申込書と健康チェック票をお送りします。

ヤップ島プログラム2024申し込み


新シリーズ ヤップでまかれた種たち

第1回:當銘朋恵さん

石垣島からヤップ、そして石垣島へ 島の暮らしから紡ぐ、自然と人と優しい社会

 地球体験チャレンジ「ヤップ島プログラム」がスタートして、約30年。これまでに、オブザーバーなども入れて400人以上の参加者がヤップの大地を踏みました。30年が経過した今、ヤップという共通の体験を持つ仲間たちは、その後の四半世紀をどう生き、そして今何と向き合っているのでしょうか。

 プログラムの30周年を迎えるにあたり、今回シリーズ連載「ヤップでまかれた種たち」をスタートしていきます。ここでは、参加者のその後のストーリーに迫りながら、あらためてヤップが持つ意味や価値を振り返るとともに、今後の私たちがどう生き、持続可能な社会づくりにどう貢献していくのかを考える機会を生み出していきたいと思います。

 第1回目のストーリーテラーは、1993年参加者の當銘朋恵さん(旧姓:宮良朋恵さん)。沖縄県石垣島で生を受け、島で育ち、今も石垣島で5児の母として暮らす朋恵さんに、ヤップでの経験はどんな影響を与えてきたのでしょうか。當銘さんが語る、自然と人がつながる生き方について、お話を聞かせていただきました。

1993年ヤップ島プログラム参加者の集合写真。中段右から3人目が朋恵さん。写真:陶山佳久

自然、伝統、文化が織りなされる日々を
過ごしながら

機を織っているときって、無心になれるんです。瞑想のように。自分の手元からものが生み出される喜びがあるんですよね。自分で糸を紡いで、仕立てて、染めて。この辺ではまだ豊年祭の着物などは家族がみんな仕立てるんですよ。麻を育てるところから始めて・・・

オンラインでインタビューに答えてくれた當銘朋恵さん
オンラインでインタビューに答えてくれた當銘朋恵さん

 1993年、ヤップ島プログラムに参加した當銘朋恵さん。石垣島で生を受けた朋恵さんは、現在地元の石垣島で5人の息子さんの子育てに励み、ご家族のパイナップル農園を手伝う傍ら、機織り、学童の支援、ネイチャーゲーム、星空のガイドなど多彩な生活を楽しんでいます。

 朋恵さんの言葉からは、琉球の頃からの文化や伝統、そして取り巻く自然の息吹が生活の中に染み入っている様が感じられます。「今は御嶽(ウタキ)に入る時に着る打ち掛けを織っています。神様のところに行くので着物をさっと羽織る。そういう村の伝統行事に参加していると、島の神様って優しいなって感じるんですよね。村の人たちや自然を見守ってくれていて。この島の大地から神様が生まれてきたんだなって、わかるんですよ」

 子供の頃からとにかく自然が好きだったと語る朋恵さん。「生き物を見ても、葉っぱを見ても、何を見ても楽しい。そこら中に宝物が落ちていて、世界中がキラキラ輝いているみたいな。何で身体が1つしかないんだろうって思っていました。」

 石垣の豊かな自然に触れ、愛しながら育った朋恵さんですが、その一方で葛藤も抱えていました。「でも、自然が好きすぎると、人間が嫌いになるんですよね(笑)。自然破壊とか環境問題とかが許せなくて。ここだと新空港や赤土の問題があって。雨が降ると山が削られて本当に海が真っ赤に染まって、血が流れているようで痛々しかった」

 世の中的にも環境問題への認識が高まる中で多感な時期を過ごし、高校、大学時代は暗くてつらかったといいます。人のためになる仕事、先生と医者と農業だけはやるまいと心に誓い、琉球大学で生物学を専攻しました。ヤップ島プログラムについて知ったのは、そんな学生時代でした。

石垣島からヤップへ

たまたま新聞を見た時に、プログラムの募集記事が載っていたんです。本当に小さな記事で。しかも締め切りが翌日。もともとアフリカに行くつもりで、アルバイトでお金を貯めていたんです。あれ、でもミクロネシアか・・・と

 明確な目的意識があったわけではなく、直感ですぐに電話をかけた朋恵さん。ヤップ島プログラムに参加する方の多くは、そんな偶発性で結ばれているのではないでしょうか。

 「ヤップは沖縄と似ているんですよね。植物の種類も近くて。でも石垣からグアム、ヤップと行くにつれて、同じ植物が巨大化していく。グンバイヒルガオとか知っています? 海辺にはえているのが、ヤップに行くとこんな大きな葉っぱになるんですよね」ヤップに初めて降り立った印象をそう語ります。

 「最初にしたのが、ココヤシのジュースを飲むことと、葉っぱでマットを編むこと。そのマットを珊瑚を敷き詰めた床に敷いて、蚊帳をつって、みんなでギュウギュウになって寝ました。それから川の上にトイレを自分たちでつくるんです。天然の水洗トイレですね。料理もみんなで取り組みました。薪を集めて、料理当番も決めて。だんだん用意していた食材がなくなってきて、最後の方はご飯にジャムをつけて食べたりして、非常にまずかったのを覚えています(笑)。それを見たヤップの人たちが、可愛そうと料理をつくって届けてくれて。向こうは青いバナナを食べるんです。ココヤシだったり、カニのおつゆだったり、シャコガイにレモンを絞ったり。美味しかったですね」

 みんなで自分たちの暮らしをつくっていく生活がとにかく楽しかったと言う朋恵さん。約30年前の様子が映像に浮かぶようにありありと語ってくれました。

ヤップの畑から学ぶ
「必要なものを取り出せる」生き方

 そして、10日間くらいの滞在の中で、その後の朋恵さんの人生観にも影響を与えるような大きな体験もありました。

 「2泊3日で、ロサさんという方のご自宅にホームステイをさせてもらったのを強く覚えています。ある時畑に連れて行ってもらったんです。ジャングルの中をひたすら歩く。そして、いきなり止まったんです。『ここが畑だよ』と。えー、ジャングルばかりで畑も何もないじゃん、と思ったのですが、よく見ると上から瓜のようなスネークビーンズがなっていたり、足元にかぼちゃやスイカがあったり・・・。衝撃的でしたね。なるほど、こういうつくり方があるんだ、森を伐採して、牧草地や畑にしなくても、自分たちが必要なものを自然の中から取り出せる。すごく豊かだなと。行く途中に自分で編んだ籠に野菜を山盛りにかついで帰ってきました」

 自然を切り拓くのではなく、自然と共に生きる暮らし。「自分たちはココヤシと魚があれば生きていける」という現地の方の言葉にも触れ、「こういう生き方ができるんだ。こういう人たちのためなら何かしたいな、何かできるんじゃないかな」と、これまで人間嫌いだった朋恵さんの心情にも変化が生まれました。「このときの体験が一番自分の中で効きました。ヤップに行っていなかったら、すごく嫌な人間になっていたかもしれない。日本に帰ってきたら、不思議と何もかもがありがたく感じられるようになって。ヤップって、その時よりも、後からじわじわ来るんですよね・・・」

 ヤップで環境に負荷を与えない生き方に感銘を受けた朋恵さんは、帰国後、人と自然の持続可能な農業に可能性を見出し、アメリカ、オーストラリアでパーマ・カルチャーを学び、インストラクターの資格を取得します。農業だけはやるまいと誓っていた朋恵さんの信条が、ヤップでの豊かな経験を経て、人と自然をつなぐ接点として農業を捉え直していく様に、場の学びがもつ力強さ、気づきや価値の大きさが感じられます。

みんな違って、みんないい

 その後、石垣に戻った朋恵さんは、結婚し、5人の男の子を授かりました。「自分なりに自然な子育てをしたかったんですよ。だから上の子は病院で産んだけど、下の4人は家で旦那に取り上げてもらって。ヤップの子供たちって3歳位から山刀ぶらさげて歩いているじゃないですか。あれを見ていたので、子供たちには1歳になる前から包丁を握らせたり、鋸やドライバーも自由に使わせて。裸で走り回って。周りの人たちからは色々と言われましたけど(笑)」

 子育てが少し落ち着いてきたころからは、星のガイドや、子供たちを相手にライフワークにしているネイチャーゲームにも取り組み始めました。ネイチャーゲームは、知識ではなく、五感で自然を感じることに本質があると語ります。「花を見た時に、これは何科の植物、という活字が頭に浮かんでくると花の本当の姿が見えてこないんです。美しい、きれい、面白い、そういった感覚を持ってもらうことが大切かなと。今は、石垣でもカエルを見たことがないっていう子もいるんですよね。マングローブを案内しているときに、この子たち自然の中に来るのが初めてなんだとショックを受けることもあります」

私は『みんな違って、みんないい』という言葉が大好きなんですけど、自然の中に行くとそれを当たり前のように感じられるんですよね

 「でも、社会を見た時に、この言葉の本当の意味を理解している人ってどれくらいいるんだろうって。学校では特に感じます。うちの子たちは、学校も草履で行っていたんですけど、先生に怒られて靴を履くようになった。なんだか苦しいなと。生き方とか仕事にももっと幅があっていいんじゃないかなと。自分だけで完結するんじゃなくて、家族がいて、社会があって、地球があって、色々なものとつながっている感覚をもてると、生きる力につながるんじゃないかな」

 子供たちには、島の文化や風土を身体に染み込ませてあげたいと言う朋恵さん。ヤップで満月の海に、筏を浮かべてみんなで泳いだ情景を思い浮かべながら、いつか子供たちにもそういう体験をさせたいなとの願いを語ります。

石垣から考えるアフター・コロナの世界

 そして時は過ぎ、ヤップ島プログラムへの参加から30年近い時間が経過しました。今、世界の状況に漏れず、石垣においても新型コロナウィルスの影響は色濃くあります。そうした今の環境をどのように捉えているのでしょうか。

 「新型コロナウィルスの影響で学校も休校になっているんですけど(5月26日現在)、私の周りでは、その良さを感じている人も多いんです。宿題に振り回されずにのんびりできますし。特に3月からゴールデンウィークまでは、石垣島は観光の繁忙期で、いつもは親も子供をほったらかしになるんですけど、今年はのどかにキャッチボールをしていたり。またこの時期は、卵を抱えたオオガニとか色々な生き物がどんどん道路に出てきて、それがタクシーやレンタカーにばんばん轢かれているのを見て心が痛むんですけど、そういうのもなくなってのどかな光景が戻ってきました。」

 本来の日常は、過密ではなくもう少し穏やかなものであるはずと話す朋恵さん。今回は、島の観光や生活のあり方を再考する機会にもなっているようです。

去年は人口5万人の島に148万人が訪れているんです

 「経済的にはありがたいんですけど、観光客が来るということは、水もエネルギーも使う。明らかにキャパをオーバーしてたんじゃないかな。コロナ前は格安の航空券で石垣島にも簡単に来られました。そうすると、ゆっくりと時間を楽しむというより自分たちの日常をそのまま島に持ち込んでしまうんですよ。飛行機の窓を閉めてスマホを見たり、悪気なくレンタカーですごいスピードで飛ばしてカエルに気づかず轢き殺したり、さっと島を回ってこの島はこんな島だからと言って帰ってしまう。私たちは、たくさんの人に島の素晴らしいところを見てほしいと思っています。だからこそ、入れる人の数にも限度を設けたりして、島に敬意を払ってもらえる人、島を大事に思ってくれる人に来てもらいたいんです」

 新型コロナウィルスの影響は、これまで限りなく手段と化していた私たちの移動のあり方に大きな負荷をもたらしました。奇しくもそのことが、今住んでいる地域でのゆとりのある生活や、移動することの意味、そして訪れる先の自然や文化へのレスペクトを考え直すことにつながる可能性を感じさせます。もしかしたら、石垣から遠く離れたヤップ島でも、30年前とは大きく変わって近代化された社会や村の暮らしが見つめ直されているかもしれません。朋恵さんは、人と自然、人と生き物、人とものとが心を通わせ、つながり、敬意をもつことで、もっと「優しい社会」がつくれるのではないかと語ります。

これからのECOPLUSへの願い

 たくさんの経験や学びを語ってくださった朋恵さん。最後に、まもなく30周年を迎えるヤップ島プログラムや、ECOPLUSへの願いを伺ってみました。

 「人間嫌いだった自分が人に目を向けられるようになって、何もかもがありがたいと思える感覚を1週間、10日間で身につけられたことは、生きる上で本当に大きかったです。私はあまり素直じゃない参加者だったかもしれないけど、人に与える影響って、企画される人の意図とは違うところでも育まれるのではないでしょうか。実際に体験する場を息長く持ち続けてくれていることはすごいなと思います。体験した人でないと通じない話ってありますしね。そういう思いを語り合える場やつながりをこれからも残し続けてほしいです

やっぱり種ですよね。種をまく仕事をしているんですよね、ECOPLUSって

 石垣からヤップを経て、また石垣へと戻ってきた1粒の種が、地元で自分らしい根を張り、人と自然をつなぎながら、新たな種や土壌を育んでいる、そんな生き方を感じさせてくれたストーリーテリングでした。

(聞き手:川口大輔=エコプラス理事、1999年ヤップ島プログラム参加)

「生きる」ことを問い直す・・・ヤップ島プログラム2020参加者募集(中止しました)

コンビニとスマホ漬けの日常から離れ、サンゴ礁で囲まれた南の島で、人々と暮らす

 石で出来た大きなお金、石貨(せっか)が今でも使われ、太平洋諸島で最も伝統が色濃く残るとされるヤップ島。その自然と深くつながった現地の暮らしに入れていただき、人と自然、人と人、人と社会のつながりやかかわり方について考え、本当の豊かさを見つめ直すプログラムです。

 ココヤシの殻や薪を使って火をおこし、魚やタロイモ、パンの実を調理する。大きなヤシの葉っぱを編んで作るマットで眠る。風のそよぎと虫の声に包まれた中で、現地の人たちと目と目を合わせて会話する。

 スイッチ一つ、クリック一つでものごとが動く日常とは違った、本物の生き方をしてみます。2019年の報告はこちらから

プログラム概要

【日程】2020年8月15日から26日(2021年2月に延期します
【対象】15~22歳程度の健康な男女。身体の障害、国籍は不問。新しいことに取り組み、自分の可能性にチャレンジする意欲を持つ人。
【参加費】26万円程度(渡航運賃、滞在費など。事前準備、個人装備、空港までの旅費、保険料を除く。特段の事情がある人は年内の分割払いの相談にも応じます)
【定員】:8名程度(5月10日締切、先着順、定員に達し次第締め切り)
【プログラムの流れ】
 ・説明会 2月から5月はじめにかけての随時、エコプラス東京事務所や早稲田大学などで
 ・顔見せ会 5月16日(土)午前10時から正午(予定)
 ・事前キャンプ 6月27日、28日…東京近郊でヤップでの生活をイメージしながらキャンプを行います。
 ・素潜り講習会(希望者と首都圏の潜水プールで)7月後半を予定
 ・ヤップ島へ出発!
 ・報告書の作成(9月)と報告会(11月頃)

【申し込み、問い合わせ】
 特定非営利活動法人ECOPLUS info@ecoclub.org
 03-5294-1441  03-5294-1442(fax)
 以下のフォームから連絡を下さい。これまでの報告書などをお送りします。保護者の方からの連絡も遠慮なくこちらからどうぞ。

なごやかにヤップ島プログラムの報告会

 ヤップ島プログラムの報告会が、2019年12月7日午後2時から5時まで、東京都千代田区の神田公園区民会館で開かれました。今年のプログラムに参加した9人のうちの8人のほか、これまでのプログラム参加者や家族知人など計25人が、ヤップでの体験とそれを通して見つけた大切なものについて語り合いました。

 会場では、できたばかりの報告書が一人ひとりに配られ、みんなは関連するページをたぐりながら、今年の参加者の報告を聞きました。

 最初に、参加者たちがそれぞれの自己紹介を短くしたあと、ヤップ島での活動内容を、写真をふんだんに使って説明しました。今年の滞在先である、タミル地区のマ村の美しい海岸沿いのメンズハウスで、火を起こし、魚をさばき、ココヤシの実の果肉を削り、パンの実やタロイモを調理したこと。大きなヤシの葉っぱでマットやバッグを編んで使ったこと。地元の人たちがシャコガイの再生を目指して増殖活動をしていること。きれいな朝焼けを見たこと。現地のことがよく分かる発表でした。

 後半は、参加者それぞれが、プログラムを通して感じた自分自身の変化を報告しました。多くの参加者が、以前は「自分自身に自信が持てなかった」「他人に左右されやすい」「回りの目を気にしすぎる」などと話し、ヤップ島での体験を経た今は「自分で考え選択出来るようになった」「自分の意見が言えるようになった」「自信がついた」「自分を好きになった」などと、自分自身への肯定的な言葉が相次ぎました。

 現地で気付いたこととして、「幸せというものは、シンプルなもの」「幸せは身の回りにある」「人の愛のあたたかさ」「自然の中で暮らす心地よさ」「本当の豊かさは、日々の暮らしの中にある」などがあげられました。

 このヤップ島プログラムは、4、5月の説明会から始まり、事前打ち合わせ、事前キャンプ、素潜り講習会、食料計画作りを重ねて、8月の本番、帰国してからのふりかえりと報告書作り、そして報告会と、半年にわたって続きます。その中で、当たり前だと思っていた日々をふり返り、ヤップ島の小さな村の暮らしにどっぷりとひたり、日本に戻って再度自分たちの暮らしを見直すというプロセスです。その中で、最後は自分自身の生き方を問い直す作業にたどり着いたことがよく分かる発表会でした。

 来年度も、8月後半の2週間近くにわたってヤップ島プログラムを実施する予定です。興味関心のある方は、いまからでもinfo@ecoclub.orgあてにご連絡下さい。プログラムの準備状況やヤップ島の近況報告などをお知らせします。