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「収穫祭」変じて、泥田での稲刈り・・・田んぼのイロハの今年最終回

雨の中、泥田での活動を終えたみなさん
 コシヒカリの本場、新潟県南魚沼市の栃窪集落で展開する「休日農業講座」田んぼのイロハの今年の最終回が、11月3−4日の両日、首都圏の親子連れや社会人、学生ら14人が参加して開かれました。
 本来は、「収穫祭編」が予定されていたのですが、9月からの長雨で稲刈りができないままになっていて、参加者たちは、急きょ、泥田での「稲刈りボランティア」として、お手伝いをすることとなりました。

 今年は、東日本各地で長雨となりましたが、南魚沼市では10月の31日のうち21日で雨が降るという天候となりました。中でも中旬以降は、台風やそれに刺激された秋雨前線で本格的な雨が続き、田んぼはどこもひどいぬかるみとなっています。稲刈り用の機械「コンバイン」もキャタピラを取られて動きが取れなくなったり、故障したりと、お手上げ。多くの田んぼで、倒れ込んでしまった稲を手で刈る作業が地道に続いています。

見事な黄金色に輝く田んぼ。本来ならすべて刈り取りが終わっているはずの時期なのだが。
 3日は、珍しい好天。田んぼを前にした地元の集落営農組織「とちくぼパノラマ農産」の笛木晶さんは、「今年はさんざんな天気でした。雨が続いて稲が乾かず、コンバインでは刈ろうにも刈れない状態です」と説明。目の前に広がる棚田のあちこちに、黄金色に輝く稲がまだ残っていました。
 参加者たちは、細長い田んぼの両端付近を集中的に手刈りしました。長い直線部分は何とかコンバインで刈ることにして、コンバインが苦手とするUターンする両端部分は、手刈りで切り抜けようという作戦です。

 午後2時ごろから本格的に作業を始め、2枚の田んぼを仕上げたあと、午後3時過ぎからは全面手刈りでという別の田んぼに移動。こちらは、くるぶし以上にぬかるむ田んぼで、稲もほとんどが倒れてしまっています。泥の中に突っ込んでしまった穂の中には、数センチづつの根と芽を出しているものまであって、参加者たちもびっくりしていました。

泥に埋まるコンバイン
 刈った稲束はあぜに山積みにして、それをゆっくりと動かしたコンバインを使って脱穀(モミを穂先から外す)作業に入りました。コンバインは泥の中にキャタピラが半分以上も沈み込み、Uターンしようとするとキャタピラが空回りをして、泥の中にさらに潜っていく状態。最後に田んぼの端に戻るときには、後半分が沈み込んで、まるで泥の海を行く船のような状態になっていました。

 この作業を終えると、東の山から大きな満月が登場。連続する棚田と下に広がる盆地、さらに向こうにそびえる山々と月、という絶景にみんなで見とれました。

大変だった2日目の雨の中の稲刈り
 4日は朝から本格的な雨。地元を応援したいという参加者は、少しでもいいので手伝いをと、雨具を来て、別の田んぼに。20メートル四方ほどの小さな田んぼなのですが、ここは完全に泥田となってコンバインはまったくお手上げの場所。みんな、雨具を泥だらけにして、2時間以上をかけて稲の刈り取りを終えました。

 集落の民家のガレージで、新米のおにぎりとあたたかなおでん、キノコ汁の昼食をいただいて、みんなはほっと息を付きました。
 「本当に食べ物を作るというのは大変なことだと分った」「泊めていただいた宿で、泥だらけの衣類を洗っていただくなどして、本当に暖かく迎えてもらいました」「小学生から大学生、社会人、シニアといろんな世代の人と一緒に作業でき、お話できたのがうれしかった」「来年こそは、収穫祭をぜひ」など、さまざまなコメントを参加者は残してくれました。

スターンレビューのシンポジウム

あと何度気温が上がると、何が起きるか。地球の気温が5度上がると水、食料、生態系のどれもが深刻な影響を受ける、と博士はいいます
あと何度気温が上がると、何が起きるか。地球の気温が5度上がると水、食料、生態系のどれもが深刻な影響を受ける、と博士はいいます

「今行動しないと、地球温暖化で大変な打撃を受ける」・・・英国の気候変動に関する最新の報告書「スターンレビュー」の筆者ニコラス・スターン博士の講演は恐ろしく、インパクトがありました。
(2006年11月28日、東京・国連大学で開かれた「The Economics of Climate Change」の講演要旨)

グラハム・フライ駐日英国大使

もう、気候変動そのものについての大きな議論はなくなってきた。これからはその気候変動と経済の関係だ。3つの課題が出てくると思う。1つ目は、このままの暮らしを続けるとどういうコストをいずれ払わなければならなくなるかということ。2つ目は、安

温暖化ガスの濃度をCO2換算で550ppmに押さえられても、気温は3度上昇する可能性があるといいます
温暖化ガスの濃度をCO2換算で550ppmに押さえられても、気温は3度上昇する可能性があるといいます

定化のためのコスト。そして3つ目が最も効果的な手法はなんなのかということになると思う。私が博士の時間を取るわけにはいかないので、これまでにしたいと思う。このスターンレビューという報告書は、全部で600ページにも上る膨大な内容だ。博士がこの発表の後に最初に訪れたのが日本であることを付け加えておきたい。

ニコラス・スターン博士
私は、英国財務大臣のゴードン・ブラウンからグレンイーグルサミットの後に、調査をまとめるように要請を受けた。そのサミットではアフリカ救済が大きな課題となったが同時に気候変動の理解を進めるための、特に経済面から見た温暖化を調べるように要請を受け、この報告書をまとめた。

最初に、気候変動に関する経済というものについて、考え方を整理しておきたい。
気候変動というのは、いろんな形を見せる。
1)それは地球全体で起きる。
2)温暖化ガスは毎年どんどん積み重なっていく。毎年の積み上げというものは直接には目に見えないが着実に長期的に重なっていく。
3)それは、とても不確かで、いろんな出来事が起きるとしても、確実にあることが起きるということではない。
4)最後に、それはとても深刻で大きなことで、しかも後戻りが出来ない。一旦排出された温暖化ガスは何百年にも渡って残る。

それに不公平ということがついて回る。ほとんど、73%の温暖化ガスは豊かな国から排出されているのに、貧しい国から真っ先に深刻な被害を受ける。しかしこの地球の上では被害から逃れることができる国はない。途上国である中国やインドのようにまた大きなガスを出すようになる国もある。

まずどういう影響がでるか。
すでに産業革命から、地球の温度は0.7度あがっている。我々がいろんな対応をとってももう1度以上はあがるだろう。何もしない場合、今世紀後半は、大気中の二酸化酸素濃度に換算した温暖化ガスは800ppmになるだろう。今は430ppm。280ppmが19世紀中旬の状態だった。2.5ppmずつ私たちは毎年毎年増やしている。2、30年の間ずっとこのままいくと100ppm増える。430ppmから550ppmに増えるわけだ。今世紀末には850ppmになる。その場合は80%の確率で世界の平均気温は5度以上あがる。100年の間に5度という変化は、12,000年前の氷河期との今との差になる。その場合、どこに私たちが住めばいいのか。まず水から影響を受けることになるだろう。干ばつ、嵐、エコシステムも大被害を受ける。2、3度の上昇でも大きな影響を受ける。これが温暖化の問題なのだ。

では450ppmで押さえられた場合はどうだろう。2度は上昇する。EUでは地球温暖化を2度で押さえようとしている。550ppmでも3度あがる。2度でも危険がある。報告書で550ppmが上限と考えている。450ppmには10年のうちに到達してしまう。なのでこれを目標にはできない。現実的には550ppmを上限にするのがいいと思う。それでもだめだという人は少なくないだろう。

温暖化によって水不足が起き、デング熱やマラリアが高緯度に拡大し、環境難民が発生し、紛争化するだろう。
ロンドンでもテムズ川の水位があがるだろう。冬の雨が多くなり、地下鉄は被害を受け、嵐も多発する。日本もでも台風が増え、水害が起き、海面上昇で人々は困ることになる。フロリダもカリフォルニアも、豊かな国の大都会も深刻な問題に直面するだろう。

この温暖化の経済リスクを計算してみよう。
このままいくと経済へのコストはどういうことになるか。
マーケットやGDPで見ると、最低でも5%でも。幅広く考えれば14%。さらにこの波及効果を考えると20%以上になると思われる。5-20%の影響があるといえる。

後からやるのはコストがかかる。
いまのままほったらかしにした場合、あと30年もしてしまうともはや気候を安定化できなくなる状態に陥るだろう。もし550ppmを目標にした場合、2020年に温暖化ガスの排出をマイナスに転じることができれば、達成することができるだろう。2010年にマイナスに転じることができれば450ppmに押さえ込むことができる。その場合でもあと30年ほどに渡って、毎年10億トンのCO2を減らさなくてはならない。

しかし、その経済的なコストは1%にすぎない。
いま1%値上げして、それでクリーンなものにすればいい。それによって温暖化を止めることができる。これは成長を止めることではない。成長もしながら環境を守ることができる。グリーンな環境を維持しながら、成長ができるのだ。新製品、新技術をいれればいい。

いま始めることが必要。そのために
1)長期的なゴールを設定すべきだ。
2)柔軟にやることが必要だ。場所や国などによって、今年は2%、今年はゼロ%という削減目標をいろいろに設定することだ。やりやすい業界はどんどんやるという風に。国ごとに違っても良い。
3)予見性があるものにしなければならない。

どうするか
税金でも、排出権取引でも、規制でも、温暖化ガスを経済の仕組みに金額として組み入れなければならない。
テクノロジーへの支援が必要。
人々に理解してもらうことも不可欠だ。

技術は安くなってきた
太陽光や風力などの新しいエネルギー開発のための投資を倍増しないといけない。毎年100億ドルを増やすべきだ。技術はすでに50%以上も安くなってきている。

世界協調は不可欠だ。
日本は3%、UKは2%のガスを出している。地球の上のみんなが関係する。
各国は、
*長期的視野を持つ。
*先進国と貧しい国の間の協力を作り上げる。日中協力も必要。先進国は多くの教訓を得ている。後進国は一部は先進国の多大の排出のおかげで被害を受けると怒っている。中国やインドはどんどん発展している。
*カーボントレードも必要。すでにいろいろやっている。
*カリフォルニア州も大きな目標を設定した。中国も森を作り直している。多くの国がやっている。それをどう相互理解の上で展開するのが大事だ。

国際技術協力が必要
技術共有と開発のRDの共同実施が欠かせない。

森林破壊を防ぐ
重工業が多くのエネルギーを使っている。電気業界が大きく関係している。森林業界がもう一つ大事。ブラジル、パプアニューギニア、インドネシアなど。その国々をどう支えるか。外部からいうのではなく、そこを知る人たちがやるべきで、それを支えるべき。日本もいろいろ知恵がある。

これからどうすればいいのか。
気温は上昇する。うまくいけば2度未満で押さえられる。しかしがんばらないといけない。ロンドンの堤防のかさ上げや下水路の再構築を考えないと行けない状況に我々は直面している。2010年から2012年にかけてのODAをこの枠組みでやらないといけない。新しい技術、作物、基盤が必要。
結論
温暖化ガスを450ppmにしないといけない。550ppmでも大変危険。それを最低限で450から550を目標にしないといけない。
それは現実的に受け入れられる世界でもある。「green and grow(環境を守り、成長する)」は可能。長期的な問題であるがいまやらないといけない。ほっておいて550ppmにすると大変なことになる。いますべきだ。でないととてつもないコストもかかる。