6月上旬、私は新潟県の自宅で、翌日からのキャンプ事業の準備に没頭していた。装備を車に積み込み、その日のうちに近いところまで移動する予定だった。積み残しや漏れがないか、最後の確認をして、まさに出ようとしていた時、電話がかかってきた。
「高野さん、メッセンジャー送ってくれましたよね」
「え?送ってないよ」
「え?そんなはずないですけどね、だって・・・」
慌ててフェイスブック(FB)を開いて、仰天した。
「いまは、暇かい?」というセリフで、FBで私につながる「友だち」全員に、メッセージが送られていた。もちろん、私ではない何者かの仕業だ。
開いた画面で次々に、私の「友だち」たちが反応をしている。
「会社で仕事中ですが」「5限の授業があります」・・・
それらに何者かがレスをする。「私のLINEが凍結されてるから、検証コードメッセージを受け取ってくれる?」
多くの人たちが電話番号を伝えてしまっていた。
私はスマホも持たないし、LINEもしない。それを知っている友人たちは、「とうとう始めたのかと思った」とあとで笑った。
しかしその日、目の前で繰り広げられる展開に、私は慌てふためいた。
「ちょ、ちょっと!違うってば!電話番号なんて教えちゃだめー!」と叫びながら、すぐさまその人たちにメッセージを打つ。
「FB乗っ取られました!高野本人ではないです。騙されないで」
次々に送るが、とても追いつかない。メインのFBページにも書き入れた。一刻も早く、一人でも多くの人たちが早く気づくように。
ところが入力して数秒後、それが削除されてしまう。また入力するが、同じことだった。
送るメッセージも、何者かによって次々に消されていく。背筋が凍る思いだった。いったい何人でこのオペレーションをやっているのか。レスの内容は機械的にも思えるが、一人一人に対応している時もある。あとで、「日本人ではないようだ」というコメントもあったが、「とても外国人には思えない」というコメントもあることから、複数の人間たちが対応していた可能性がある。
私が慌てふためいてFBに書き込んでいる一方で、「乗っ取られてますよ」「やり取りしてしまいました。途中でおかしいと気付きました」というメールや電話が、次々とやってきた。
ちょうど一緒にいた夫に手伝ってもらって対応し、なんとかFBページを停止。ところがまた勝手に再開されてしまう。また停止するが、またすぐ再開される。どこかで、これを操っている奴らの高笑いが聞こえるようだった。彼らは、私のFB関連情報だけでなく、使用しているメールもパスワードもすべて把握している、ということだ。そして私になりすました何者かと、お友だちのやり取りが続いてしまっていた。
問題はそのあとだ。「なりすまし」に騙された人たちはどうなるのか。
すべてはわからないが、あとで知った実例は次のようだ。FBでの私のなりすましに電話番号を伝えたAさんは、そのLINEが乗っ取られ、Aさんを偽装した何者かが、LINEでつながるAさんの友人に「ちょっと手伝って」「BitCashカードを買って」と頼んだ。その友人は結局、3万円分のカードを購入して、騙し取られてしまったという。本当に申し訳ない。
今回の被害がどこまで拡大したのか。友人との信頼関係を落とし穴として利用した、許せない行為だ。ネットを利用した犯罪は、これからますます増加し、悪質化するだろう。
ネット決済をする銀行やSNSを提供する企業も防止のためのさまざまな措置を講じているようだが、個人としてはあちこちに落とし穴がある。空港などのパソコンでウェブメールを利用してうっかりログアウトを忘れる、他人のマシンを借りて記録が残りそれが流出する、既存の会社そっくりに化粧したフィッシングメールにひっかかる、などなど。そして、裏を取っていない情報であるが、FB上で偽造された「お友達」が3人いると、なりすましや情報を盗むことができるのだという。私の場合は、すでにそうした「本人のふりをした偽の友達」が混じっているかもしれないので、これまで使っていたFBアカウントは抹消することにした。
今回の件で、自分も乗っ取られたことがある、偽装メールは前もあった、など、少なからぬ事例があることがわかった。それほど一般的になりつつあるのだとすれば、二重認証の設定だけでなく、ともかく「騙されない」ために、「変だな」と思うアンテナを研ぎ澄ませておくことが一番だ。家族や親しい友人が、お金の話や知っているはずの個人情報を聞いてきたら、本人に別手段で確認するなどしたほうがいい。
今回の件では、どこかで私が落とし穴に引っかかったため、多くのみなさんに不快な思いをさせたり、実質上の被害にあわせてしまうことになってしまった。以来、メールやウェブでのやり取りや「クリック」は、かなり神経質に精査し、慎重に読んで判断している。そのため、レスすべきもしていないかもしれないが、そのくらいでないとまたやられてしまうのではないかと疑心暗鬼な状態だ。ネット社会はさまざまな課題や問題を孕んでいるが、これを一つの例としてぜひ多くの方と共有し、これが繰り返されないことを願っている。(7月7日)