高野孝子の地球日記
2018年の「今年の漢字」で最も応募数が多かったのが「災」だそうだ。
猛暑や地震、豪雨などの自然災害や、パワハラや文書改ざん、不正入試などの事件などがイメージされたという。
気候変動への対応を協議する国際会議COP24が、ポーランドで12月に開かれていた。交渉は難航し、進行は遅く、予定を2日間延長してようやく決着した。温暖化(global warming)ではなく、「熱化」(heating)に言葉が修正され、科学者たちが次々とこれ以上の気温上昇は人類滅亡の危機を生むと指摘。産業革命前と比べて1.5度以内におさめる必要を語ったという。
一方で石油産出国であるアメリカ、ロシア、サウジアラビア、石炭輸出国のオーストラリアが過小評価する発言を繰り返し、合意された文言は柔らかいものになった。
しかし最終的には渋っていた中国も透明性を約束し、途上国への支援も確認され、2年ごとに進捗を報告しあうことになった。
平成が幕を閉じるということで、この12月は特に30年を振り返る傾向がある。この30年で世界は何が良くなり、何が脅威だろうか。私たちの生命や暮らしの基盤である自然環境の劣化や汚染、伴う災害、各地での紛争、政治的にも様々な非合理的な状況が生み出されている。
だからこそかもしれないが、この1年を通して、「サステナビリティ」の視点や「地域や場に目を向けること」が、さらに広がった気がしている。
11月には国際野外教育研究大会でオーストラリア東海岸に向かった。場所を提供した大学には、水筒に水を補充できる場所があちこちにある。大会中のコーヒータイムでは、使い捨て容器は使用されていない。マイカップ持参が推奨されていた。
10年以上、「場」や風土に適した教育について研究したり、提唱したりしているが、最近注目度が上がっているSDGs(国連が定めて奨励する持続可能な社会のための目標)と、ユネスコスクールの実践が重なる事例を見ると、まさに「場の教育」の視点で活動がされていることが多い。見学に行った横浜市の小学校では、「水の流れ」を校庭で実験していたが、後日、近くの川に出かけ、この実験とつなげていくという。そこからさらに洪水の際の予測などもできる。
日本の野外教育や環境教育研究ではあまり盛んでないが、世界では「場」「地域」に注目した研究は10数年前から見られるようになった。環境的、倫理的側面も含めて、今回の大会ではすでに当たり前の文脈であり、「場への注目がきちんとなされているかどうか」が指摘の一つになるほどだった。
今年はそれぞれ別の学生たちと一緒に国内外のフィールド実習を何度か実施し、2月には英国湖水地方を訪れた。ある市が管理を断念した公園を、市民有志らがコミュニティプロジェクトとして借り上げ、のちに買い取り、改良、維持、運営している公園を視察した。住民たちが、町の貴重な緑の空間だと考え、始めたという。
「私たちの活動はサステナビリティに貢献していると思うわ」。
公園でボランティア担当をしている女性が胸を張った。敷地には元々の馬屋を改修したカフェと食物を育てるガーデンがあり、作物はカフェで使い、苗は市民に提供される。5人スタッフのうち、専従は一人。10万ポンドの支出を、メンバーシップとカフェ、スポンサーや助成金で賄うという。100人を超える市民ボランティアが運営を支える。同市には他に、劇場と市場の2つの市民プロジェクトが元気に動いている。
滞在最終日には、現地大学の学部生らと交流した。途中で小グループでのディスカッションをしたが、テーマは「サステナビリティについて」。彼らの専攻はアウトドアスタディ、日本で言えば野外教育だ。でも「サステナビリティ」について、早大生と語り合った。
滞在中どこを訪問しても、学生も、農民も、「サステナビリティ」という言葉をあたりまえのように使った。受け入れ先だった大学内のカフェには、倫理的環境的な課題について考える学生グループによる呼びかけチラシが置かれ、飲料水機には「学生でない訪問者も水筒補充にどうぞ」と張り紙がある。
ここに参加した学生たちの環境・社会意識は大きく高まった。「ここで学んだことを、帰国後、たくさんの人たちに伝えていく場を作る」と全員で共有し、帰国後は「サステナビリティ」をテーマにした報告会とワークショップを実施した。
地球外で暮らすための研究や実験も今年は話題になったが、まずは今暮らしているこの惑星で、持続可能な社会を築くために努力し、投資し、協力しあっていくことだろう。それができなければ、どこに行こうが結末は同じことだ。(12月23日)