Aotearoaを訪ねて

Aotearoa、アオテアロアって何のことかわかりますか?
ニュージーランドのことを、マオリ語でそう呼びます。マオリとは、ニュージーランドの先住民族で、ポリネシア系の人々です。13世紀ごろにwakkaと呼ばれるカヌーで、太平洋の島々からニュージーランドに渡来したと伝わっています。
独自の言語(テ・レオ・マオリ)と文化、精神的な価値観を今も大切にしています。
2025年9月上旬、私は7人の大学ゼミ生と一緒に、オークランド地域に暮らすマオリの友人、Ihirangi Hekeを訪ねました。「マオリの世界観から探るサステナビリティ」というテーマでした。彼を訪ねるのは3度目ですが、新しい気づきが多く、また少しマオリの世界観の理解に近づけた気がしています。
2023年国勢調査によれば、同国の人口は約500万人で、7割がヨーロッパ系、多くが移民の子孫です。マオリとして民族アイデンティティを申告した人の数は約89万人、全人口の約18%。マオリ全体の85%が北島に暮らしています。
世界各地の先住民族の多くが、植民地化や被支配、同化や抑圧、人権蹂躙の歴史を持ちます。20世紀後半にかけて、世界中で権利や尊厳を取り戻す長期の運動が展開され、法律も整ってきましたが、現在も様々なレベルでの差別があります。
私がここ20年ほどで訪れた場所では、母語や知識、暮らしの技術を含む、アイデンティティに関わるさまざまな要素や誇りをいかに回復し、次世代に繋げていくかという取り組みがなされていました。
マオリ文化も同様に抑圧されていましたが、1970年代に復興運動が始まりました。1987年にはマオリ語を公用語とする法律ができ、当初は私的な位置づけだった、マオリ語と価値観を教育の根幹に据えるマオリ語学校が1989年に正式な教育制度として認可されました。

マオリの文化と尊厳を取り戻す流れは成功を収めていると見なされていて、Ihiの元には世界各地から視察がやってくるそうです。私たちと同じ時期に、アメリカモンタナ州からクロウインディアンのチームが訪れていました。
2017年にはWhanganui River(ワンガヌイ川)、2025年にはTaranaki mountain(タラナキ山)が法的人格を認められました。もちろん課題もありますが、川や山自身が権利・義務を有する存在となったのです!マオリの世界観が法律制度に反映されました。
マオリにとっては自然の中にたくさんのatua(霊的存在)がいて、それは先祖であり彼らと一体化する存在です。
Atuaと、日本における「八百万の神」や古来の神道についてIhiと話していた際、異なる点に気づきました。日本人にとって自然界の神々は、畏れ敬う存在。祈りを捧げて恵みや助けを乞います。マオリはなぜatuaに助けを乞わないのか、と聞いたところIhiは「atuaは我々の先祖なんだから、頼まなくてもこちらを助けるのは当たり前だろう」と返ってきました。なんだか笑ってしまいました。
そして別の機会にIhiが言った”Maori never die”というフレーズ。彼らの文化はシェアする、分かち合う性質を持つ、と話します。それによって彼らの文化はさらに強く、そして続いていく、マオリは死なない、という表現につながります。それはatuaとのつながり、先祖との繋がりが極めて具体的に意識にあることも関係していると思います。
1週間に満たない訪問でしたが、学生たちが「頭を殴られたみたい」というほど大きな衝撃があった経験となりました。私たちは誇り高いマオリの人たちに出会い、日常的な不正義に耐えながら、より良い社会を目指して戦っている、さまざまな活動をしている姿に接することができました。
学生たちは、自分たちが「有利」な立場にあったことに気づいて愕然とし、マオリの高校生が強烈に示した「誇り」から、自分たちは何者かを自問したようです。私も、戦い続けるIhiたちの姿に心を打たれました。
諦めずにやり続ける。またエネルギーを充填してもらった気がしています。(25年10月 髙野孝子)
