高野孝子の地球日記

感染下で過ごす春の日々

「新緑の多種多彩の美しさに幸せを感じる季節になりました」

 そんなお手紙と一緒に、お世話になっている地域の方から、実家の両親に木の芽(ミツバアケビの新芽)が届いた。

 この辺りでは大人気の山菜だ。太めのものは特に珍重され、高く取引される。近年、季節の変わり目が流動的になり、人同様、草花も混乱しているのではないだろうか。

 昨年12月に災害規模の大雪となり、多くの家々の軒や庭木が折れた。この春は、大工さんや工務店、そして木を伐採する仕事の人たちは休む間もないくらい、あちこちから依頼があるという。

 そんな大雪が、4月にはあっという間に溶けてなくなってしまった。5月まで残ることもある田んぼの上の雪も消え、桜も、ここ数年より2週間以上も早く4月初旬には見頃だった。30年ほど前の花見は5月だったというのに。

 けれどもいつもより田植えが遅い地域も周辺にはあるようだ。3月から4月は暖かかったが、4月末から5月にかけて冷え込み、種籾からの苗の育ちが遅いらしい。

 「稲の苗を植えてしまってからは、はっきり言って、人間はもう手出しができません。あとは太陽と微生物と水に任せるしかない。人間は天候で心配するくらい」と木村さんが笑う。

 木村さんには、今期、大学の実習を受け入れてもらう予定になっている。田んぼにも農山村にも無縁で育ってきた若い人たちに、素手素足で田んぼに入り、田の草取りを体験してもらう。農業や中山間地域の現状を体験的に理解し、食や地域社会について考える趣旨だ。当初5月末だった実習が、東京都の緊急事態宣言の延長によって、延期された。宣言の行方次第では、中止になる可能性もある。

 Covid-19が日本国内で知れわたってから1年4カ月。わかってきたことが蓄積される中で、落ち着きはある。けれどこの間、政府の対応には「なぜ」と思うことだらけだった。出される複数のメッセージが矛盾していて、方向性がわからない。決断にも根拠が示されないし、データも十分に開示されないため、どう考えたらいいのか判断もできない。

 お願いベースで対策をするのであれば、広くPCR検査をして無症状感染者を見つけなければ広がり続けるのは、素人でもわかる。そのためには民間を活用し、場合によっては落ち着いた国からキットを輸入してでも徹底的にやるべきだった。

 そうした声はありながらも措置は取られないまま、結果として矛盾し各方面から批判される対策だけが続き、ずるずる今に至る。政治的リーダーたちは、残念ながら聞かれていることにまっすぐ答えない。結果、政治不信、政権への信頼が失われていく。

 1年以上、このようなフラストレーション続きであったが、先日大学から連絡があった。

 5月20日からキャンパスにて学生や教職員対象にPCR検査を実施するというものだ。

内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室が実施する「感染症拡大の予兆の早期探知のためのモニタリング検査」に協力する形ということで、政府の検査期間が終わり次第、終了という。

 てっきり大学が独自に実施する、画期的施策と喜んでいたが、この調査自体は大きな意味がある。対面授業を実施するにもリスクが下がる。実際、授業の履修生らにも、陽性者や濃厚接触者が出ている。聞けば、日々通常の予防対策を取っていて、飲食を伴う会合などもしていないそうなので、変異ウィルスの強さを思う。

 私が暮らす南魚沼にも陽性者が増え始めている。大人だけでなく、小学校や幼稚園でも陽性者があった。

子どもたちの感染が確認され、一時小学校や保育園が閉鎖された。

 拡大を防ぐためには、とにかく検査と適切な情報開示だ。どうやって感染したと思われるのか、具体的な事例をたくさん重ねていくことから具体的にわかることがある。現状では、陽性者は「30代 男性 公務員」などとだけ知らされていて、そこからは何も学べない。

 個人を守る観点も重要だが、住民を守るためには、もう少し有益な情報を出す工夫が行政には求められると思う。

 このウィルスはなかなか厄介で、これからも変異株が出てきそうだ。そもそも長期的に安全なワクチンかも定かでない中、切り札として始まっているワクチン接種。日本に暮らすほとんどの人たちが打てるまでどのくらいかかるだろう。まだ正式なスケジュールさえ出されていない。

 だからと言って、いつまでも日々の活動を止めるわけにはいかない。長期化すればするほど、大切なことは進めていかなくてはならない。この中で、どのように大切なことを実行していけるか。限られた情報の中ではあるが、合理的に判断して実行していかなくてはと思う。(5月17日)