~豊かさとは気持ちのやりとり~
プロフィール 愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶ、しまなみ海道のちょうど真ん中に位置する愛媛県大三島でパン屋「まるまど」を営まれています。
「エコプラスとの出会いは?」
僕がエコプラスとの関わりをもったのは、大学生のとき環境問題に取り組むNPO法人にインターン活動をおこなうCSOラーニング制度のイベントのインタビューを通してでした。その際、インタビュー受けてくださったのが大前さんで、そこからエコプラスの活動に興味をもち、企画終了後はエコプラスがおこなっていた愛知万博(*2005年開催)のスタッフとして活動させていただきました。その活動で、日本で育ち日本しか見ていない僕にとっては、ちょっとした海外の人のありかたや文化がとても刺激になって、それで海外に行ってみたいなということを強く思いました。このエコプラスが開催していた愛知万博での異文化交流がきっかけで、その後の僕のカナダに留学することや、エジンバラ大学で学ぶことなどその先の展開へのきっかけとなりました。
「どんな留学をされたのですか?」
愛知万博での経験も影響して、海外で生活をしてみたいという気持ちが強くなり、カナダへ「WWOOF」という制度を利用して、オーガニックファームに農場体験に行きました。農作業を手伝う代わりに寝る場所と、ご飯を提供していただけるもので有機農業を営む農業のお手伝いをおこなうものです。
当時、僕は全く英語が喋れず、現地で仲良くしてくれた方には僕に初めて会ったとき、僕が「Yes,No,Wow」しか言えなかったよねって言われるくらい、英語は全然できなかったんです。
海外での生活を通して、英語を話す、学ぶということが、受験するためのツールであるとか、良い点数や良い成績を取って自分のアイデンティティになるとかそういったものではなく、私が生き残るために、目の前にいる人とコミュニケーションをとるためのツールである。ということを身に染みて感じました。そのことに気が付いてから英語の勉強の仕方や本能的に英語を身につけたいと感じ、とんでもなく英語力が身に付きました。
「エジンバラ大学に留学をしたきっかけは?」
大学卒業後、世界をもっと見たいなと思っていたので就職の道は選びませんでした。大学では里山の保全活動や、自分たちで耕作放棄された田んぼを、学生の手で再興しようという環境団体を大学1年ときに立ち上げて、4年間そういう取り組みをしていたので、農業や食とかに関心がどんどん上がっていったんです。
その中で、ヨーロッパの共通農業政策に興味をもちました。共通農業政策は、生産性の向上や農家の収入と生活水準の保障、消費者への適切な価格での農産物供給を目的に行っているものです。その共通農業政策が、どれだけ経済的な効果や雇用を生んでいるのかについて一定期間すごく興味があったので、そんな勉強ができる大学の一つとして、エジンバラ大学に出願をしました。
推薦状は高野さんにも書いていただいて、エジンバラ大学は早々に合格をいただいたので、それで高野さんとの繋がりもあるし、なんかすごい面白そうだね、行ってみたいなと思ったのでエジンバラ大学に決めたって感じでした。
「エジンバラ大学を卒業後は?」
帰国して、外資系のマーケティング会社に務めました。子供が生まれることをきっかけに退職して、地域おこし協力隊での制度を利用して、愛媛県今治市大三島に移住しました。大三島に住んでみると樹齢2600年の大樹を目の前にしたときの自然の偉大さ、人の豊かさ、食べ物の美味しさなど発見の連続でした。そんな中でこの島にしかない食べ物や風土を生かしたものを使って地域活性化をしたいと考え、島の特産品みかんを使ったパンを作ることを始めました。
「どんなパンを作っているのですか?」
大三島では、温州みかんをはじめとした愛媛県のオリジナル品種である「紅マドンナ」「甘平」など約40種類もの柑橘類が栽培されています。そんな大三島の特産品で、みかん酵母のパンを作りました。みかん以外でもパンを作る材料は、地元大三島産や有機栽培された素材にこだわっています。そんなお店「まるまど」のパンを通して、大三島の恵みを堪能してもらいたいなと思っています。大三島の豊かな食材で、その時一番美味しい旬の味わいや、その大三島でしか食べられないものが、地域の人や、旅をする人にとって価値あるものになると信じています。
「まるまど」の建物、内装は地元の職人さんにお願いして、地域の方が観葉植物を持って来てくださるなど、地域の方の助けがあって、完成しました。なので「まるまど」は、僕だけではなく地域の方と一緒に作り上げた空間ですね。僕の目指していたものは、地域に根ざしたパン屋、地域の人たちの関係性の中で成立するものだったので。やっぱり、自分のエゴだけで作り上げた空間には人は集まらないから、いろんな人の思いがあるからこそ、居心地の良い空間になったのかなと思っています。
「大三島での暮らしは?」
僕が思う大三島での暮らしの豊かさは、地域の人との温かい気持ちのやり取りですかね。大三島の主産業は農業なので、農家さんや家庭菜園で野菜や食べ物を育てる人も多いです。
そんな地域の方々が育てた野菜や、柑橘の時期にはみかんをたくさんくださったり、東京で買えば一万円以上しそうな大きなアワビをくださったり。利益や効率で何事もとらえるのではなく、素直に相手に喜んでほしいからあげる。そこにある気持ちのやりとりに豊かさを感じますね。自分だけが豊かに暮らすというよりも、自分と関係する人たちを含めて豊かに暮らす。そんな生活が根付いています。
だから大三島の暮らしは、都会的な暮らしとはちょっとあり方が違うんですよね。どこかの組織に属して、働いて、お給料もらうのがサラリーマンじゃないですか。そのもらったお給料で、いろんなサービスを受けて、暮らしを豊かにするみたいなのが都市的な暮らしだと思うのだけど、地方だとやっぱり収入も少ないので、暮らしを豊かにするために、お金をいっぱい稼ぐことをゴールとするよりも、その地域の中で、何か助け合って暮らす風土が息づいていて、そんな暮らしの在り方が大三島に住んでいて一番豊かだなと感じます。
地域の人とのその関係性に豊かさを感じるようになって、経済的な豊かさが必ずしも豊かな生活ではないことに気づかされました。
「エコプラスの活動で共感できることは?」
机上で学ぶということではなく実際に現地に足を運んで、自分の五感で体感していることですかね。体験を通して、自分が五感を通して感じたことに嘘はないというか、自分の原体験ほど根拠のあるものはないと思います。 今僕が大三島でのパン屋を営んでいるのも、エコプラスの体験の中で自分にとって豊かさって一体何なんだろうって、誰かに教えられたものとかではなくて、自分自身がちゃんと内側から共感して、これを自分の生き方にしたい、それを実現することで僕らの周りにいる人たちも暮らしが豊かになる、みたいなそういう感覚のベースにはやっぱり、エコプラスの活動に参加させてもらった体験があるのではないかと思います。
「若者に向けてのメッセージをお願いします」
迷ったらどんなことでも積極的に経験してください。
これはエコプラスでの活動で大切にしていることとも重なりますが、たくさん体験して、その行動に移していく中で、様々な世代や立場、文化の違いも含めて人に会うっていうのも、すごく大事なことだと思います。やっぱり面白い人の周りに面白い人たちが集まってるから、そういう方々のエネルギーとか行動力に巻き込まれて自分の思ってもみなかった良い方向へと導かれていくはずですよ。
そして学生の時間は、責任が自分の中に完結する貴重な時間です。自分の中にある違和感や素直な声をきいて自分の本質で、生きることを大切にしてください。そうすることで、自分自身があるべき方向へと力が働いていきます。
【Z世代の私だからいいなと思ったこと】
その地域の空気、環境のなかで育った食材をいただけることの尊さや、その地域の人たちと関わることで得られる豊かさが、何より羨ましいと思いました。自分がその地域で生きている証を、その地域の方との交流から感じる。これは私の住んでいる東京での暮らしにはないものなので 。また、都会に住んでいるとコンビニエンスストアで売られているものが、物価高で高騰したり、社会情勢にどれだけ影響しているかを日々感じます。しかし、大三島での暮らしのように、食べ物を地域の中で作り、助け合っていく文化は、本来人間があるべき暮らしであり、ほかの国からも影響を受けないのではないかと感じます。そしておすそ分けの文化も根付いているからこそ、食品ロスも減らすことができる循環的な暮らしに感動しました。
【小松さんのご厚意で「まるまど」のパンを送っていただきました】
みかん酵母を使用したカンパーニュを初めとする、島の食材をふんだんに使った菓子パン・惣菜パン、味のバリエーション豊富なベーグルなど、どのパンもおいしかったです。
特に感動したのはいちじくとくるみのパンでした。カンパーニュというと固く、パサついているイメージでしたが、歯切れのよいちょうど良い柔らかさでしっとりとしたカンパーニュは初めてでした。
また意外な組み合わせのパンが多く、どんな味なのかわくわくしながら楽しめるパンが多かったです。それも大三島の食材でつくる「まるまど」だからできるパンなのでしょうか。
東京にいながら大三島の食材をいただけている喜びを、ひしひしと感じました。ありがとうございました。
聞き手:津田 萌香