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「自然の中で人はもっと元気になる」ーーミッテン教授がやさしく語りました

森の中で話をするミッテンさん

エコプラスは、2017年6月22日から24日まで、新潟県南魚沼市や早稲田大学、東京都八王子市を舞台に、米国プレスコット大学大学院教授のデニース・ミッテンさんによる、「自然の治癒力」をテーマとしたセミナーやワークショップを連続展開しました。

ミッテンさんは、森林生態学を出発点に、野外セラピーや女性のための野外活動、野外教育や心理カウンセリングと幅広く活動を展開。理論と実務の双方に詳しい専門家です。今回は、日本野外教育学会での記念講演などで来日され、それを機会に、エコプラスの高野孝子代表理事が、連続してのイベントを企画しました。

南魚沼市でのセミナー

22日の南魚沼市では、新潟市や長岡市などからも野外活動家や教育関係者など20人近くが集まり、23日の早稲田大学でも、学生のみならず障害者教育などにあたる実践者ら30人が集まって、それぞれセミナー形式で、ミッテンさんの発表を聞きました。

セミナーの中でミッテンさんは、人間がこの数万年の進化のほとんどの時期を、自然の中で暮らしてきたことに触れ、「私たちの中に埋もれている先住民族としての意識(Intra Indiginous consiousness)」があると指摘。一方で、現代社会が急速に自然と人との関係を切り離して、その中で、もう一度自然との関係を築くことで、個人も家庭も社会もより健全になることが出来ると強調しました。

早稲田大学で話すミッテンさん

ミッテンさんは、この自然がもつ治癒力がこれまで軽視されてきたことを1994年に学術的に指摘。他のさまざまな研究例を引きながら、野外で過ごす時間を少しでも持つことで、人がいかに健全になるかを分かりやすく説明してくれました。

セミナーでは、全員が目を閉じて、お気に入りの自然の様子を思い浮かべるNature Visualizationという活動などもして、参加者自身が、心拍数が下がり、気持ちが落ち着くことを体感しました。

24日は、JR中央線の高尾駅前にある森林総合研究所の多摩森林科学園を舞台に、午前午後を通したワークショップをしてもらいました。ミッテンさんは、野外やカウンセリングなどの専門家ら13人を、同科学園のみどり豊かな森の中にゆっくりと導き入れて、自然をよく見る活動(Nature Scan)、自然の中から友達を探す(Find Friends)、拾ってきた枯れ葉や木の実でアートを作る(Nature Art)などの活動を、一つひとつ丁寧に実施して、その意味を体験的に考える時間を作り上げてくれました。

森の中でゆったりと話し合う参加者のみなさん

江戸時代からの古い歴史を持つ深い森の中で、鳥のさえずりや吹き渡る風、自らの体の鼓動などを感じながら、じっくりと自然を感じることで、ストレスで圧迫されていた心と体がよみがえることを、強く感じさせてもらいました。

一連のセミナーやワークショップに参加したみなさんからは、「教育、医学、心理学など多様な分野をつなぐ貴重な話を聞かせてもらった」「野外活動が単なる運動ではなくて、幸福感を育むものだと分った」「これまで実践してきたことが正しいと理論的に確信できた」などという前向きなコメントが数多く寄せられました。

今回の連続イベントでは、南魚沼市教育委員会、森林総合研究所に大変お世話になりました。明治大学講師の針ケ谷雅子さんにも東京での開催でお力をいただきました。ありがとうございました。

民主主義を日々積み重ねよう!“Practice Democracy Everyday”

 1月21日の国際シンポジウムでの、ブロンウィン・ヘイワードさんの発言要旨です。やっと整理が出来たので掲載します。

シチズンシップ(市民の役割)
 日本やニュージーランドでは高齢化が大変深刻な問題になっています。しかし、世界人口の半分は25歳以下で、都市で育っています。どうやってこの若者たちに、市民としての役割を考えるように手助けできるか。それが私の関心事です。

若者が直面する4つの課題
①危機的な環境の変化
 2011年にニュージーランドのクライストチャーチで大きな地震が起きました。福島がそれに続き、大きな被害を出しました。自然のもつ急激な変動と、ゆっくりした変動の双方が、これからの世代を襲うことでしょう。実際にその悲劇に直面するのは、孫や子どもということになるでしょう。

②地域の弱体化
 企業が、有利な税制や雇用を求めて地球規模で簡単に移動する時代。その企業をどう引き止めようかと自治体や国々が苦悩しています。企業と地域社会の関係をどう築くか。グローバルな経済と地域の民主主義との関係の維持は、より難しくなろうとしています。

③社会的格差の拡大
 多くの国々での課題となっています。過去30年、ニュージーランドでの貧富の格差は,スウェーデンに次いで世界ではもっとも大きく広がってしまいました。
 人々は、不平等ということについて敏感になっています。

④不安定な雇用
 若者の仕事がない、あるいは不安定な雇用状況が広がっています。ユニセフと世界銀行による調査では、例えばチュニジアという国でいま13歳の若者が、今後10年の間に職に就けるかどうかは、この先10年の間、毎年650万の新しい職が生み出され続けなければならないということでした。私たちの社会、経済、そして環境は、どうやってそれを実現できるでしょうか。

 私たちは考え方を変え、世界的な視野から考えないといけなくなっているのです。同時に、私たちの世代が作り出した世界的な課題に対して若い世代が取り組むのを、どう支えることが出来るのか。高度につながりあい、都市化されデジタル化された世界の中で、市民になるということはどういうことなのか、その若い市民たちがつながりあうことをどう支援するかを考えねばなりません。

ヘイワードさんのSEEDSモデルのスライド

SEEDSモデル
 私は、シチズンシップや、ある場所に存在し,所属し、関わるということを考える「SEEDSモデル」を提案しています。

Social Agency(協働意識)
 個人として権威から離れ、自ら思い描くことが出来る。行動することが出来る。それが西洋における啓蒙思想にもつながっていく、個人が考え,行動するという世界です。問題点の一つは、最後には「私がこの国を再び偉大にする」というような権威主義的なリーダーに行き着いてしまうということです。
 私が推し進めたいのは、個人としてのAgency(行動意識)ではなく、社会的な行動意識です。いかに他の人々との連帯の中で、コミュニティの中で尊敬しあいながら、つながりあって行動できるか。ということです。難しいことです。みんな違っているからです。
 この例の一つです。私が住むクライストチャーチでは、2011年2月の大地震の後、学生たちはフェイスブックで仲間を募って町の片づけ作業を始めたのです。6月に二度目の大きな地震が起こった時には2万4千人が組織されていました。大きな変化のためにともに汗を流し,行動したのです。

Environmental Education(環境教育)
 単に気候変動や、水の循環や土壌の科学などについて知るだけでは十分ではないのです。その土地の物語を聞き,その場の歴史を知り、そこで友達と仲良くなり,その場をもっと理解し、そこで遊ぶことに自信を持ち、その場が好きになり,その一部になっていると感じることが必要なのです。
 ニュージーランドの先住民マオリには、スランガワエワエ(turangawaewae)という素敵な言葉があります。私が立つ場所という意味です。この土地を、そこにいる人々を、その歴史を、その自然環境を理解しており、自信を持っているということなのです。

Embedded Justice(場の正義)
 経済学者のアマルティア・センがいうところの正義です。人々の声に耳を傾け、その状況をしっかりと理解し、解決のための正しい道筋を考え、決断することを支援するということです。
 私たちはこれまでの歴史を背負い、過去のいくつもの戦争を経て、多くの犠牲があり、自分たちが考える正義があり、思い込みもあり、恐怖や愛、希望を持っています。その中で、どう正しい判断をしていくのかということを、子どもだけでなく大人に学んでもらうことが必要です。
 困難な時代には、社会を操作することはたやすいことです。だれか特別な人たちに、不正義や不公平さを押し付ければいいのです。壁を作れとか、あの島を孤立させてしまえとかいうのです。彼らが悪い、と。
 環境問題でも、問題を生み出した長い歴史を省みることなく公正な決断をするということはできないのが、実際なのです。この産業化の恩恵を受けてこなかった人々のことを考えないでいいのでしょうか。資源の配分、温暖化ガスの排出枠。

Decentered Democracy(あちこちにある民主主義)
 哲学者のアイリス・ヤングが語った民主主義の非中央化ということを考えなければならないと思います。ニューヨークでウォールストリートを占拠する抗議活動が世界に広がったのがその例です。自分の住む街で、あなたの街で、だれかの街で、どのように会話をするのか。個別の課題ではあっても、それはつながりあっているということです。たとえば今日、世界165カ国で女性たちが権威主義のトランプ大統領に対する講義活動をしています。それぞれの場所で、共有する課題について議論する。それが非中央化された民主主義です。

 3年か4年か5年かに1回だけ投票する民主主義とは違って、日々判断を積み重ねるということなのです。世界各地の思慮深い、排他的でない会話をつなげる民主主義なのです。自分の声が届いていると感じてもらえるように進める。どのように他人の意見を聞くかということにもっと力を注ぐ必要があると思います。
 思いやりをもって地域の会話を聞き、それをつなぐということをどう教え、考えるかは、とても大事なことになってきていると思います。

Self-transcendence(自己超越)
 西洋では個人主義が強調されます。しかし私は、子どもたちはこういう課題を前にして決してひとりでいるのではない、かれらはもっと大きな社会の一部である、そう理解してもらうために、どうすればいいかと考えています。自己超越という概念です。今の自分を超えるより大きなものとの一体感のことです。宗教やあるいは神秘的な体験、自然との一体感、地域や家族、種族との連帯感、長い歴史の一部であると感じることを通して実現されるものです。若者たちが、自分自身の枠をはるかに超えて、何かより大きなものに支えられている、時間と空間と歴史の一部になっている、いまは無くなってしまった昔からの何者かの一部であり、これから登場してくる未来世代の一部であると感じることなのです。

エコロジカルシチズンシップ
 市民の役割、シチズンシップというものをもっと幅広く、毎日の暮らしを考えるものとして再定義する必要があると思います。エコロジカルシチズンシップ(生態系に配慮した市民の役割)と呼びたいと思います。私たちを取り巻くさまざまな要素、そして生態系に気を配るということです。
 これは、トランプ大統領の登場や英国のEU離脱という流れに対する即効薬ではありません。しかし長い時間をかけた、小さなことの積み重ねが大事なのだと思います。毎日の暮らしの中で民主主義の修練をどう積み重ねていくか、なのです。