シリーズ ヤップでまかれた種たち

地域に根ざし、地域に感謝し

 自然が身近にあり、自然に生かされているというヤップの姿に、自身が住む丹沢と同様のルーツを感じた高梨さん。自身が地域にいることの意味、地域で茶業に取り組むことの意味が再構成されたと語ります。

 「ちょうど自分が丹沢にいることによって地域農業にどういう貢献ができるかを考え始めていた時期だったんですね。地域資源とか強みとか、地域の人とか自然を通してどのように地域の魅力を上げられるか、自分がそこにどう貢献できるのか。ヤップの方々との体験からそのヒントを教えてもらえたような気がします」

 ヤップで地域に根ざすことの意味や価値を再認識した高梨さん。帰国後は、その学びを活かし、自分の生まれ育った地域のツールをお祖父さんにたずねて理解を深めたり、その過程から地域掘り起こしの商品をつくるなど、ヤップに行く前にも増して地域とつながる活動を続けています。

 お茶をより身近に感じてもらうべく開発したティーパック製品には、土に還せるトウモロコシ由来のフィルターを活用するなど、環境への配慮も高まったと言います。「大それたことはできないですが、美味しいものをつくることに加えて資源を大事にしたい、そんな気持ちでやっています。」と語ります。

 そして特に力を入れていることが、手もみ茶です。「自分がテーマにしている手もみ茶で日本一を取りたいっていう目標があるんですね。静岡や京都や埼玉でなくても日本一のお茶がつくれることを証明したい。ただ、それは決して自己満足ではなくて、日本一を取ることで、この地域の先祖への感謝を表したいんです。先祖が始めてくれなかったら、自分もここでお茶をやっていなかったですからね。」

体験が広げる世界

 そして、手もみ茶と同様に高梨さんがこだわりたいと考えているのが、「手もみ茶の体験」です。「手もみ茶の美しさ、美味しさに触れてもらうことに加えて、実際に体験もできますよ、というところまで、自分の中で結びつけたいんです」と想いを語ります。

 「見たり、聞いただけでは、わからないことが“体験”だと思っています。地域の自然だったり、お茶というものが身近にある環境。そういう体験の中に、食べることへの感謝というのが含まれていると僕は思うんですね。それはヤップでも感じたことです。お金を出せば何でも買えるというものではなくて、それがどんな地域で、どうやってつくられているのか、そこにどんな生産者さんがいるのかということを感じてもらえたらなと」

 実はこのコロナ禍の中で、以前よりも「手もみ茶体験」の問い合わせが増えているといいます。「ネット通販でものは手に入るけど、それに飽きてしまった人も多いのではないでしょうか。特にお子さんをお持ちの方から、子供にもっと体験をさせてあげたいという問い合わせがあるんです。僕がエコプラスからもらったように、そういう場を自分がつくれるといいなと思いますね」

 そうした体験の場づくりを行っていく上で、高梨さんが気をつけていることがあるといいます。「便利にしすぎないというのは大切にしていますね。問い合わせの中には、ハイヒールを履いて来られるようにコンクリートを打ったり、大型バスが入れるように駐車場を広くしたり、本当は6時間かかるものを1時間に短縮してほしいと言われることもあるんです。ただ、手もみ茶は究極のスローフード。1時間では本当の価値にならない。気持ちはわかるのですが、本物を体験できるという本質のところは貫き通したいなと考えています」

 自分の地域で、静岡で、そしてヤップで本物を体験し、自分の考え方や可能性を広げてきた高梨さんだからこそ、手もみ茶をつくるように丁寧にご自身の体験の場をつくっていこうというこだわりが伺えます。

 インタビューの最後に、エコプラスへの期待も伺ってみました。

 「エコプラスにはやっぱり、引き続き、誰かにきっかけを与えられるような体験を続けてほしいなと思います。私も含めてお互いに場の提供を行っていけるといいですね」

 丹沢の森で生まれた種が、ヤップの森を経て大きな芽として育ち、丹沢に戻って本物の体験の場を育んでいます。その新たな土壌からさらなる芽が生まれていくような可能性を期待したいと思います。

高梨茶園(お茶のオンライン販売もしています) 
〒259-1302 神奈川県秦野市菩提1387 0463-75-1104

(聞き手:川口大輔=エコプラス理事、1999年ヤップ島プログラム参加)