アウェーの洗礼を浴びた「棚田草刈りアート選手権」

東京都在住のデザイナー宮部浩司さんによる「棚田草刈りアート選手権」出場の報告です。アウェーの宮部さんの奮闘結果やいかに。

最近僕は、スポーツ自転車を買ったのです。それが嬉しくて、愛車を新幹線に積み、大会の前日、越後湯沢から栃窪まで自転車で行きました。それが間違いのもとでした。山の上の栃窪に着いたときには、すでに次の日の体力を使い尽くしていました。その夜、笛木晶さんが「夏限定何とか原酒」というものすごく美味しいお酒をもって現れ、草取りに来ていた新潟日報の山田さんとしこたま飲んでしまいました。第二の間違いでした。

草刈り機の使い方を教えてくれた日熊良一さんが、「8時なんかに始めていたら間にあわねえぞ」と脅すので、翌日5時に起きたものの、足腰の乳酸濃度と、体中のアルコール濃度は極限まで達していたのか、身体はふらふら。そこへもって、笛木幸治さんのお父さんが使っているという草刈り機は、おっそろしく重く、肩にずっしりと食い込みます。エンジンのかけたかが分からずにおろおろしていたら、晶さんが通りかかったので、かけてもらいました。ブオーーーーーン。

とにかく、始めてはみたものの、タテ7〜8メートル、ヨコ50メートルぐらい(たぶん)のでっかい畦のキャンパスにどうやって構図をとっていいのか、さっぱり検討がつきません。ふだんマックでいかにちんまりした仕事しかしていなのかを痛感しました。実際草を刈ってみると、自分の足下の草の模様が、遠くからどう見えるのかがさっぱり検討がつきません。しかたがないので、畦を下りてその下の田んぼをぐるっと回って絵の正面まで行って確かめて、またえっちら上るという作業の繰り返し。これはきつい。本当にきつい。

午前の作業を終えた宮部さん。午後の作業はほとんど手抜き?
午前の作業を終えた宮部さん。午後の作業はほとんど手抜き?

EAの2文字を描いたところで、朝食、そして開会式。いよいよ本戦の開始です。気温はどんどん上昇し、ぬぐってもぬぐっても吹き出てくる汗。全身びしょびしょです。RTまで描いたところで、隣のキャンバスで制作をしていた岩井さんたちから休憩しようと声をかけていただいて、車の陰でいっぷく。みなさんが持ち寄った、あさ漬けの茄子やら、トマトやらきゅうりやらの夏野菜が並ぶ。うめー!めちゃくちゃうめー!最高っす。これが食えたというだけで、来たかいがあったというものです。

Hを描いて、昼食タイム。くらさんのカレー、美味しゅうございました。ここでも茄子の素揚げが出てまたも涙。この日一日で、たぶん一年分ぐらいの茄子を食ったと思います。午後、お腹がいっぱいになって、調子が出てきたのか、いろんな構想はわいてくるのですが、いかんせん体力が残っていませんでした。地球をひとつ描いて終わりになりました。

試合終了後、幸治さんの軽トラックの荷台に乗せてもらって、村中に点在する他の選手の作品を見て回ったのですが、その作品群もさることながら、栃窪という土地の美しさには感動しました。何度も訪れている栃窪ですが、一つ道を横に入るだけでこんな所があるんだと発見の連続。久稔さんの作品が鎮座する森の奥は、ある種の神々しさを感じ、良一さんのタヌキみたいな熊が描かれた山の麓には、清々しい風がゆっくりと流れていました。

棚田のあちこちで作業をする人々が見られました。中央奥のオレンジ色の作業着が宮部さん。
棚田のあちこちで作業をする人々が見られました。中央奥のオレンジ色の作業着が宮部さん。

さて、肝心の結果ですが、何の賞にもかすりませんでした。くやしーーーい。ホントにぐやじい。まあ決して自慢できるほどのものではないですが、とにかく大きくて迫力あるのになあ、僕の作品は。やっぱり描くの楽だからといってあんちょくにローマ字にしたのががいけなかったのかなあ。あんまり悔しいので、打ち上げの席で酔っぱらって、「来年は僕が優勝しますので、みなさんも腕を上げておいてくださーい!」と高らかに宣言。 大ひんしゅくでした。

いやあ、面白かったっす。最高でした。でも来年は本当に狙っています。優勝カップを村外に持ち出すためには、アウェー人数をもっと増やさなくてはなりません。一人で立ち向かってはやっぱり不利です。ROAD TO THE TOCHIKUBO. 闘いはすでに始まっています。

宮部浩司